梅雨とワイパー
2021/06/14
梅雨とワイパー
「梅雨が好き」こんな事を言うと、よく珍しがられますが、私はこの梅雨が大好きです。
梅雨のマイナスイメージはジメジメ、どんより、長雨で活動しにくいと様々ですが、日本人に
とって梅雨は農作物が育つ為の、ありがたい慈雨の季節でもあります。
梅雨の時期ならではの風景全体を覆う静寂感、雨の日に存在感を放つ紫陽花も大好きです。
長雨は建築現場の工期にも影響を与える側面もありますが、そこまでやって来ている真夏の前の、
このひとときの静寂感を楽しみたいと思います。
雨の日の車の運転にはワイパーの作動が欠かせません。ワイパーの発明は今から百年以上も前の事で、
手動式から始まり、電動式へと進化したものの、昔の車のワイパーは「強」と「弱」くらいしか作動スピードを
選べませんでした。その後、間欠ワイパーが登場し雨滴間知識ワイパーまで登場しました。他にワイパーブレード
の改良等、自動車産業の雨天時の安全確保に対する姿勢には頭が下がる思いです。
しかし、様々な進化を遂げているクルマのワイパーですが、フロントガラスに降り注ぎ視界を妨げる雨粒をブレードが
往復して強制的に拭き去るという基本動作に変わりはありません。その昔は将来的にはワイパーは無くなり、強力な
エアーを吹き付ける方式に変わると予測した人もいましたが、いずれにしてもクルマのワイパーに変わるシステムを
開発したらノーベル賞ものとまで言われ続けています。
クルマの動力源は内燃機関に代わり電動モーター駆動が主流になりつつあり、クルマそのもののシステムが根底から
変化していく時代にあります。しかし、そんな進化の中でもクルマのワイパーの基本動作はどこか人間的な所作を
思わせる今の方式をあえて残すべきではないかと思います。そこには自然現象に対する敬意と安全への願いを感じるからです。
思えば、私達タイル業界も、長年に渡り地道な進化を材工共に続けています。湿式工法から乾式工法へ移行する中
での弾性接着剤の開発と進化、それに伴うタイル技能工の技術の進化も両輪として欠かせませんでした。
様々な進化の中でも、不変的な事は、タイル技能工の手によりタイルが張られているという事、
ワイパーの動きの如く、生き物である建築現場への敬意と安全への願いです。
雨の中、クルマのワイパーの動きを見て、ふとそんな事を考えて運転しているとワイパーの動きすら愛おしく感じます。
今日も御安全、御安全で。
文:紫月有人 ◆四季の移ろいと共にタイルをこよなく愛するタイル人